「なんだと云うのだ一体――!」
苛立ちを隠しもせずに先程彼女が寝ていた寝床に腰掛ける。ああ、苛々する。
「ねえ、ギルガメッシュ…」
「あやつの云うことなど気にするでないぞエルキドゥ」
薄緑色の髪を靡かせ彼もまた部屋の中へと入った。そうして寝床の横に立つ。
「良いの、追い掛けなくて」
「構わん。放っておけ」
「大事な妹さんなんでしょ?」
ギルガメッシュはエルキドゥに背を向ける様に転がる。まるで不貞腐れている子供のようだ、とエルキドゥは思った。
「きっと妹さんだって寂しかったんだよ。最近ぼくとばかり遊んでたでしょ?だから、きっとぼくにギルガメッシュを取られたと思ったんだと思う」
「――…!」
その言葉を聞いてギルガメッシュはがばりと上体を起こした。起こしてエルキドゥを見やる。
「嫉妬……?」
「うんうん、そうそう。ギルガメッシュだって急に妹さんが知らない人と一緒に何処かへ行ったらどうする?」
「そんなもの、殺すに決まっておろう」
それと一緒だと彼は笑う。にしても、彼女に殺されないだけ自分はましなのかと疑問に思ってしまったエルキドゥだった。
*
苛々する。
獅子を連れ城下町を歩く。面を上げず平伏す下々にも今は苛々した。
しん、と静まり返る街に似つかわしくない足音が聞こえる。それは段々と近付き、彼女の前に現れた。
「――…う、わぁあああん!!」
場が戦慄する。その声に反応して幾人かは面を上げた。
まさか、まさか、あの王女の足元に"ぶつかった"のだ。更には泣き喚く始末。小さな5つにも満たない子だろうか。だが、子だろうかなんだろうが許される行為ではない。皆が、死んだと思い目を瞑り頭を地に付ける。
しかしもう1つ、違う音が聞こえた。
「王女様よ―…!どうか、どうか御許しを!我が子の無礼私が身をもって償います!ですから――…「やめろっ!」
その子の母親だろうか。御許しを、と泣き乞う女を周りの人間が取り抑える。そんなことをしてもただ被害が増えるだけだ。あの子だけではなく、お前の親族全員が殺されるぞ、と。
わんわんと彼女の足元で泣き喚く子供。ゆるりと彼女の手が動く。ああもう、駄目だと。目を瞑る者も居たし逸らす者もいた。
「――…泣くな」
だが。
「ふ、ぇ、えっく…!」
「それでも貴様、男子か?男子ならば高々転んだ位で泣くでない。みっともないぞ」
小さな子の頭に手を乗せ。
「良いか、お前等は何時の日にかこの地に命を捧げ、この余に命を捧げ、國守る1人となるのだ」
「―…ぅ、?」
「だからこのような事で泣くでない、雑種」
(その日その子の瞳には、一生忘れられない程綺麗に微笑む女神様が映っていた)